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第十五話 兎

村を後にした兎は
一路、生まれ育った山を目指していた

実は、烏賊足兄妹は本当の兄妹ではない
幼いころに烏賊足パパに引き取られて兄妹の様に育てられたのだ

兎「 ・・・懐かしいな・・・ 」

遠くに見える山々を見つめ、感慨にふける兎


− 13年前 −

物心が付いたばかりの兎は、一人ぼっちで深い山の中に居た
両親がどうなったかは誰も知らない

兎は生き残るために、自然から生きる術を学んだ

山や川が、兎にとって全てであり
獲物を追い毎日山中を駆け巡った

生き残るための生活は、兎をたくましく育てた


そんなある日のことだった

各国の情勢は悪化の一歩を辿り
戦争はますますその激しさを増していった

やがて、戦火は兎が住む山奥にもおよんだ


兎は普段と変わらず獲物を求め、やぶの中に身を潜めていた
そこに現れたのは、カセドリアの兵士だった

兎は初めて見る人に驚き、しばらく観察を続けていた

兎「(変な動物だな・・・妙な格好だし、数も多い・・・
   攻撃して反撃を受けたら無事には済まないだろう・・・)」

兎は、大人しくその場を去ろうとした・・・その時

兵士「 なにものだっ! 」
兎「 !? 」

兵士「 怪しい奴め・・・動くな 」

武器を構える姿に、兎は敵意を感じたのか身構える

兎「 ガルル・・・ウゥゥー 」

声を聞きつけ、カセドリア兵士が集まる

兎「 ガルル・・・ガウッ 」

形勢不利と見た兎は、ジャンプをすると頭上にあった枝を掴み
ひらりと木の上へ・・・枝をつたって逃走をする

兵士「 逃がすな!敵のスパイかもしれん 」

必死に逃げる兎、兵士の合間をぬって突破する

兵士「 こいつ、早いぞ・・・・そっちにいったぞー 」

指揮官「 私の弓をもってきなさい 」
一部始終を見ていた、部隊の指揮官が警護兵に向かい言った

警護兵「 はっ! 」
弓を受け取った指揮官は、矢からヤジリを外し兎に狙いを付ける

高い岩の上をめがけて、兎がジャンプした瞬間だった
バシュッ!

指揮官の放った矢は、着地しようと出した兎の足を捕らえた

バランスを崩した兎は斜面を転げ落ちる
兎は兵士に捕まり、指揮官の前に出された

指揮官「 見事な身のこなしだったな・・・
      見たところまだ幼子にも見えるが・・・何者だ? 」

兎「 ガルルル 」

指揮官「 なんだ?ひょっとして言葉が話せないのか? 」

兎「 ガルルゥ・・・ 」
うなり声をあげる兎であったが、その目には恐怖が浮かび上がっていた

指揮官は兎に近寄ると、兎の縄に手をかける

兎「 ガゥッ! 」
指揮官の手に噛み付く兎、兵士がとっさに引き剥がそうと近寄る

指揮官「 静かに! 」
一喝すると、兎の目を見つめる

指揮官「 何もお前に危害を加えるつもりはないんだ、自由にしてやる・・・ 」
そう言うと、兎の縄を解いた

兎「 ??? 」

指揮官「 どうしてこんなところに一人でいる?両親はどこだ? 」

兎「 ・・・? 」

警戒し身構える兎

指揮官「 私は敵じゃない・・・ 」

両手を広げ、敵意が無いことを示しつつ少しづつ近寄る

兎「 ウゥゥ・・・ 」

指揮官「 ほら・・・何もない、私は敵じゃない・・・ 」
そういうと兎の頭を優しく撫でる

兎「 !? 」

手が触れた瞬間、ビクッと警戒するようなしぐさを見せたが
優しく撫でる手に、兎は暖かいぬくもりを感じていた

兎が触れた初めてのぬくもりであった

指揮官「 よし、この子は私が引き取る 」

指揮官「 きっと戦争で両親をなくしたか、戦火に巻き込まれて親とはぐれたか
      ・・・いずれにしろ放ってはおけない 」

指揮官「 慶太とも歳が近いし、良い友達になってくれるだろう 」

そういうと兎を抱きかかえた

指揮官「 そうだな、お前の名前は『 兎 』だ。
      野山を元気に飛び回る、すばしっこいお前にはぴったりの名前だ 」



兎「 親父・・・ 」

兎「 そうだ、俺はもともと山で暮らしていたんだ・・・ 」

兎は、烏賊足パパとの出会いを思い出していた