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第十六話 杏

烏賊足家の近所に住んでいた、アーズ家にとても可愛い女の子が誕生した
これは、その子が8歳頃の話しである

烏賊足兄妹は、年齢が近いせいか仲が良かった

烏賊足家の親は忙しいらしく、あまり家に帰る事がない
話しによると、遠くまで仕事なんだそうだ

烏賊足の兄妹達はワンパク盛りで
毎日一緒にあちこちに出かけては、いたずらをしたり
山に冒険したり楽しく遊んでいた

ある日、アーズ家の前を烏賊足兄妹が通りかかった時
窓からこちらをずっと見ている少女が居ることに慶太が気づいた

慶太「 あの子・・・こっちをずっとみてる 」

壷「 ああ、アーズさんの娘さんだよ
   なんでも体が弱くてずっと家に閉じこもってるらしいね 」

葵「 そういえば、前に通った時もこっちを見てた気がする 」

兎「 ガル・・・ 」

慶太たちが通り過ぎても
姿が見えなくなるまで、少女はずっと烏賊足兄妹を見送る

その姿が、なぜか慶太の心に引っかかっていた

ある日、慶太がアーズ家の前を通ると
やはり少女はこちらを眺めていた

ふと思い立った慶太は辺りを見回すと
塀を飛び越えて、少女の前まで走った

慶太「 いつも、そこから見てるよね?何かあるのかい? 」
少女「 えっ・・・?私?えっと・・・ 」

慶太「 あ、ごめん・・・俺はその先に住んでる慶太って言うんだ 」

慶太「 いつも君が、そこから外を見てるからちょっと気になってね 」

少女「 うん・・・私、体が弱わくて・・・外へ遊びにも行けないの
    だから、せめて外へ出たつもりになりたくて窓から外を・・・ 」

慶太「 そっか・・・大変だね・・・一人じゃ寂しいだろうに・・・ 」
少女「 ううん・・・もう慣れたから・・・ 」

慶太「 そうだ!もし君が良ければ
    俺が外の話しでも聞かせてあげようか? 」

少女「 本当!?嬉しい・・・ 」

それから慶太は、暇な時を見つけては
少女に兄妹で行った山の話しや川の話しを聞かせに行った


慶太「 それでさ!
    足を滑らせた兎が川にドッボーンって落ちちゃって大騒ぎ! 」

少女「 わぁっ・・・大変! 」

慶太「 兎は、そのまま川に流されてさ・・・滝つぼにまっさかさま! 」
少女「 それで?それで・・・どうなったの? 」

慶太「 まあ、兎は育ちが山だから、けろっとした顔であがってきたけどね 」

慶太「 葵なんて真っ青な顔してオロオロしてるし
    壷なんて『 兎兄ぃが死んじゃったー 』って泣き始めるし大変 」

少女「 よかったー・・・それで、そのとき慶太さんは? 」

慶太「 俺?俺は・・・別に心配してなかったさ・・・へへっ 」

少女「 嘘、慶太さん優しいから平気で居られるわけがない! 」

慶太「 ははっ・・・実は兎が落ちた後・・・
    兎を助けようと川に飛び込んだのさ・・・こう、颯爽と!」

慶太「 ところがさ・・・
    飛び込んだ場所が悪くて、枝に引っかかってしまってな
    兎が助けてくれるまでぶら下がってたんだ・・・ 」

少女「 あはは、やっぱり慶太さん優しいね、勇気もあるし! 」

慶太「 そんなんじゃないな・・・あの時は必死だったし
    気づいたときには川に向かって飛んでた、って感じ? 」

いつしか、慶太は少女を笑わせるのが楽しくて仕方なくなっていた


それからしばらくして・・・

慶太「 ねぇ、今度、ハイキングに行くんだけど
    良かったら、一緒にいかない? 」

慶太「 遠くまで行くわけじゃないし
    体調が悪くなったらすぐに帰ってくるからさ! 」

少女「 行きたいけど・・・多分、ダメって言われる・・・ 」

慶太「 じゃあ、内緒でこっそり抜け出して・・・ 」
少女「 だめだよ・・・怒られちゃう 」

慶太「 大丈夫!大丈夫!上手くやればバレないって、ね? 」
少女「 ・・・うん・・・わかった 」


それから数日後、ハイキングに行く日

慶太が少女を迎えにくる

窓から手を伸ばし、少女を抱きかかえると
慶太と少女は家から抜け出すことに成功した

慶太「 あっはは・・・ね?バレなかったろう 」
少女「 うんっ!慶太さん、私・・・今、自分で歩いてるよ 」

少女「 すぅー・・・お外の空気って美味しいね 」

これまで慶太が見てきた笑顔の中で一番の笑顔がそこにあった

慶太「 こんな時は、歌を歌って歩くと楽しさ倍増するんだぜ? 」

慶太「 何か歌える歌はあるかな? 」
少女「 そうなの?でも、歌なんて歌えないよー 」

慶太「 そっか、じゃあ俺が歌うから歌ってる気になってね 」

というと慶太は少女の手をとって、歌いだした

慶太「 よーめにーこないかー♪ 」
少女「 ぷぷっ、なにそれー 」

慶太と少女は、いっぱい話し、いっぱい笑った

しかし、楽しい時間は長く続かなかった

目的の場所まで、あと一息というところだった

少女「 ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・コホンッ 」
慶太「 大丈夫?少し休もうか? 」

少女「 うん、大丈夫・・・着けば休めるし・・・ 」
少女「 今ね・・・とっても楽しいの・・・ハァハァ 」

慶太「 無理したらダメだよ?きつかったらおんぶしてあげるから 」

少女「 ううん、いいの・・・自分で歩くから・・・楽し・・・ 」

バタッ

電池が切れたオモチャのように、少女は崩れ落ちた

慶太「 おい!しっかりしろ!大丈夫か?! 」

少女「 ハァ・・・・・ハァ・・ハァ・・・ 」

慶太は少女を背負うと、来た道を必死に駆け出していた

慶太「 しっかりしろ・・・すぐ家まで連れていくからっ! 」
少女「 ハァ・・・ハァ・・・うん・・ゴホッ・・ゴホンコホンッ 」

慶太は必死に走った
首にすがり付いていた少女の手から力が抜けていくのを感じる

慶太「 しっかりしろ・・・ほら村が見えてきたぞ! 」
少女「 ・・・ハァハァ・・・ 」

少女はもう返事すら出来なくなっていた

慶太「(どうか、無事でありますように!)」
慶太は必死で祈りながら、アーズ家を目指した

アーズ家に着くと、玄関へ飛び込む慶太

慶太「 誰か!誰かいませんか!誰かー! 」
アーズママ「 はいはーい、どちらさまですか? 」

慶太「 おばさん・・・ 」

アズママ「 コメッド! 」
アズママ「 どうして・・・コメッド!あぁっ、神様・・・・ 」

駆けつけた医者により、少女は一命を取り止めることが出来た

烏賊足パパ「 慶太!お前がそんな馬鹿者だったとはっ 」
烏賊足パパ「 一歩間違えていたらお前はあの子を殺していたんだぞ! 」
烏賊足パパ「 自分のしでかしたことがわかっているのか! 」

バキィッ!
慶太「 ブベラッ 」

ガラガラガッシャーン

烏賊足パパ「 もう二度とアーズ家に近寄ることは許さん!」
烏賊足パパ「 部屋で反省していろ!わかったな 」

慶太「 ・・・はい 」

慶太の謹慎が解けた後も、二度とあの窓が開くことは無かった

それから2年

アーズ家に悲劇がおとずれた
両親が出先で事故に遭い、帰らぬ人となったのだ

こうして少女は天涯孤独の身となり
烏賊足家に引き取られることになった

早く家族に溶け込み、辛い記憶を忘れられる様・・・
少女は、杏と名づけられた

烏賊足パパ「 みなに紹介する、新しく家族になった杏だ 」

烏賊足パパ「 歳は10歳で倍増のお姉さんになるな
       みんな仲良くしてやってくれ 」

慶太「 (よかった、元気でいてくれた・・・) 」
杏「 ・・・フンッ 」